リムパーザについて③

前回は、リムパーザがどのようにしてがん細胞をやっつけるか、その仕組みをお話いたしました。合成致死という、これまでの薬剤にはなかった仕組みで、リムパーザは画期的な薬剤であるというお話でした。

今回は、乳がん卵巣がん症候群(HBOC)の患者さんが術後にリムパーザを内服すると再発率が低下するというお話です。

これはOlympiA試験という臨床試験で確認されました。OlympiA試験は臨床試験の中でも第3相試験と呼ばれる、新薬が世に出る前の最終段階の試験に相当します。第3相試験の前には新薬の安全な投与量を決める第1相試験、新薬の効果や投与法を決定する第2相試が行われます。第3相試験は第1相、第2相試験で安全性と効果が保証され、今までの治療法よりも優れているかどうかを判定する試験です。新薬を投与される患者さんと、これまでの標準とされる治療法を行う患者さんの間で治療効果を比較し、優劣を決定する比較試験の形式をとります。参加する患者さんの数も数十人までの第1,2相試験から第3相試験では数百人から数千人の患者さんが参加します。ここで治療成績がより優れて、副作用も許容できる範囲なら、その新薬は当局から認可を受けて市販されることになります。

OlympiA試験ではHBOCの患者さんが1836名参加され、921名がリムパーザと標準治療を行うグループに、915名が偽薬と標準治療を行うグループに割り振られました。2つのグループの間でデータが集められて、試験開始から再発までの期間(IDFS, DDFS)、試験開始から亡くなるまでの期間(OS)などが比較されました。結果はリムパーザが標準治療よりも良い結果となりました。試験開始から3年間で、標準治療の患者さん全体の約20%が遠隔再発したのに比べて、リムパーザを内服していると約13%に抑制されていました。また、標準治療の患者さんは3年間の間に約12%の方が亡くなりましたが、リムパーザを内服すると亡くなられたのは8%と3分の2に減少していました。リムパーザの内服期間は1年間だけだったのですが、論文のグラフを見てみますと内服期間を過ぎても標準治療との差は拡大傾向にあります。今後、試験開始から長期間のデータも発表されると思いますが、さらにリムパーザの治療成績が良くなる可能性があります。

リムパーザの副作用は吐き気が57%の患者さんに、全身倦怠感が40%の患者さんに、貧血が24%の患者さんにありました。貧血の進行により5.8%の患者さんが輸血をしています。他にも頭痛、血球減少、食欲不振、味覚障害、痺れなどがありました。嬉しいことに脱毛の報告はなかったようです。

今回の臨床試験で対象となった患者さんはHBOCというだけではなく、術前化学療法をされた方なら手術の際に腫瘍が残っている必要があったり、化学療法より先に手術をした方ならリンパ節転移があったりと、HBOCである以上に細かな条件がありました。実際に術後のリムパーザの内服の対象になるHBOCの方も同様の条件になります。該当するかもしれないと思われた方は主治医の先生とよく相談なさってください。

OlympiA試験が初めて計画されたのが2014年ですので、今から9年近く前です。その頃の術後標準治療は点滴の化学療法を除けば、ホルモン受容体陽性、HER2陰性のルミナルタイプならホルモン療法だけ、ホルモン受容体陰性、HER2陰性のトリプルネガティブタイプなら何もありませんでした。世は移り今のルミナルタイプの術後標準治療は、ホルモン療法だけでなく、病期が進んでいればホルモン療法に加えてベージニオやTS-1を内服する方が再発を抑えることができますし、トリプルネガティブタイプの方も術前化学療法で腫瘍が消失しなければ、抗がん剤を内服することで再発を抑制できます。2014年と比較すると標準治療の内容が変化したのですが、HBOCの患者さんに限定した術後治療の試験はこのOlympiA試験だけですし、リムパーザを内服すると生命予後(OS)が延長することが証明されていますので、対象となる条件に該当すれば内服されることをお勧めします。

最後にリムパーザの薬価ですが、1日約1万円です。1ヶ月で約30万円、3割負担で約9万円です。多くの方が高額療養費制度を利用することになると思います。内服期間は1年間です。

次回は、リムパーザの別の臨床試験OlympiAD試験のお話をいたします。