ホルモン療法と妊娠について

今月は、乳がんの術後、妊娠を考えておられる患者さんの背中を少し後押ししてくれるかもしれないお話です。

The New England Journal of Medicineという、医療界では最も権威のある雑誌の5月4日号に掲載された論文をご紹介します。表題は『乳がん術後の妊娠を試みるためにホルモン療法を中断することについて』です。

乳がんがホルモン受容体陽性タイプであった場合、手術の後、再発予防を目的にホルモン療法を最低5年間行う必要があるのですが、このホルモン療法の内服薬であるタモキシフェンには赤ちゃんに奇形を促す催奇性があって、タモキシフェン内服中に妊娠することは避けなければいけません。手術を終えてから出産を考えておられる患者さんにとって妊娠を優先するか、再発予防を優先するか、あるいはホルモン療法を中断して妊娠を試みるか、は悩ましい問題でした。

今回の論文では、手術の後、まず18ヶ月間から30ヶ月間ホルモン療法をして、中断したあと妊娠を試みても、中断せずにホルモン療法をずっと継続していても、その後3年間の再発率は変わらなかったと報告されています。この臨床試験には、516名のホルモン受容体陽性の閉経前の方が参加されていました。全員が妊娠を希望されていて、試験に参加する1ヶ月前からホルモン療法を中止しました。それから3ヶ月後に最長2年間の妊活を開始されています。27歳から42歳までの方が参加されて、年齢の中央値は37歳、病期はstage IとIIの方が合わせて93.4%でした。StageⅢの方も参加されていますが、6.0%と少なかったようです。リンパ節転移のあった患者さんも参加されていて、33.6%もいらっしゃいます。手術前後に化学療法を受けた方も62.0%いらっしゃって、早期の方だけではないことがわかります。結果は、ホルモン療法を中断して3年後の再発率は8.9%で、ホルモン療法をずっと継続していたグループは9.2%でしたのでほとんど変わりませんでした。

出産に関するデータは491名の患者さんから得られています。368名、74.0%の方が妊娠されました。残念ながら流産は93名、25.3%の方にありました。それでも365名の赤ちゃんが生まれています。双子も15組ありました。うち、早産が27名、7.3%です。35歳以下では85.7%の方が妊娠されたのに対して、40歳から42歳の方は52.7%と年齢とともに妊娠率は低下していたようです。

ホルモン療法を中断しても再発率は上昇せず、妊娠出産についても悪いデータではなかったようです。この結果は患者さんも我々医療者も大いに勇気づけてくれるでしょう。ただ注意が必要なのは、ほとんどがStage IIまでの患者さんだったことです。腫瘍が大きかったり(5cm以上)、リンパ節転移の個数が多かったり(4個以上)した患者さんの再発率は明らかに高く、こうした患者さんが果たして、ホルモン療法を中断して良かったのかどうかよくわかっていません。また、ホルモン受容体陽性の乳がんの方は術後5年を経過しても、少ないとはいえ再発が起こりえます。今回の試験では術後からすると約5年経過してのデータですが、術後10年まで追跡するとまた違った結果になるかもしれません。それから不妊治療をされていた方は215名、43.3%いらっしゃいました。化学療法が予定されている方は治療が始まる前に受精卵凍結などを行い、卵子に薬剤の影響が及ばないようにするのも重要かと思われます。

次回も気になる論文がありましたら、ご紹介したいと思います。