リムパーザについて②

さて、前回お話しした遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)のお話の続きです。

前回のお話をまとめますと、乳がんの患者さんの中には遺伝子に原因があって乳がんや卵巣がんになりやすい方々がいらっしゃいますが、この方々の病名が遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)で、遺伝子検査で診断されると日本でも保険診療で乳房や卵巣の予防切除ができるようになりました、とこのような内容でした。

今回は、リムパーザという薬のお話です。リムパーザは製品名で、一般名はオラパリブといいます。日本では、再発した乳がん患者さんの中で、抗がん剤をいくつか行ったけれど効果がなくなって、その中でもHBOCの方だけが内服できる薬剤として、2018年7月厚生労働省から追加承認を受けました。

この薬剤はこれまでの抗がん剤と大きく違います。今までの抗がん剤の多くは転移、再発していれば全ての患者さんが対象になっていました。でも、リムパーザはHBOCの方にだけ効果があるのです。どうしてHBOCの方でないと効果がないのでしょうか。

私たちの体は様々なタンパクから成り立っていますが、これらの設計図が遺伝子です。両親から半分ずつもらった設計図を元にタンパクが合成されて、私たちの体は成り立っています。遺伝子は2万以上のタンパクの設計図から構成されていますが、遺伝性乳がん卵巣がん症候群の方はその中のBRCA1とBRCA2と呼ばれる2種類の設計図に異常がありました。このBRCA1/2は細胞の中で何をしているかというと、主に遺伝子損傷の修復を担当しています。遺伝子の損傷は一日に5万から50万回も起こっていると言われていますが、この設計図の損傷の修復にBRCA1とBRCA2が関与しています。損傷が修復されないと、その細胞が死んでしまったり、細胞が癌化したりする原因になります。BRCA1とBRCA2は言わば、設計図のメンテナンスを通じて正常細胞を守ってくれている訳です。

遺伝子の修復には様々な修復方法があり、BRCA1/2は相同組み換え(HR)と呼ばれる遺伝子修復に関係しています。これは遺伝子が切れてしまった時の修復方法です。ほかにも設計図の一文字の誤字に相当するような損傷(一塩基の異常)の修復法(BER)もありますが、こちらにはPARP1というタンパクが関与しています。

リムパーザはこのPARP1というタンパクの働きを邪魔する薬です。PARP1が働かなくなったらどうなるのでしょうか。細胞は一文字の誤字が見つけるとこれを修復しようとしますが、リムパーザを内服していると修復できません。修復できないとどうなるかというと、なんとその場所で遺伝子が切れてしまいます。正常な細胞ですと、BRCA1/2がこの断裂を修復してくれるのですが、BRCA1/2も働かないと遺伝子が壊れてしまって、切れた部分以外のタンパクの設計図も読めなくなり、細胞は死んでしまいます。

これがリムパーザがHBOCの方の乳がん細胞だけに効果がある理由です。そもそも癌化した原因の一つがBRCA1/2の異常だったのですが、PARP1を機能させなくして、これを短所にしてしまった訳です。もともとBRCA1/2が働かず、正常なPARP1の働きを抑えてがん細胞をやっつけることから、このような作用を合成致死と言います。合成致死の抗がん剤は今までありませんでした。このリムパーザが初めての薬剤になります。

 

当院でも乳がん検診を行なっています。大阪市、池田市、大東市、豊能町に在住の方々でしたら、当院でも市民検診を受けることができます。また、自費検診として、視触診、マンモグラフィー、エコー検査がセットになった検診も行なっています。初回の方は12,000円、2回目からは11,000円を頂いていますが、今年8月から3つの検査をセットにした検診チケットを10,000円で販売しています。購入1ヶ月後から3年間有効で、購入者ご自身でも、ご家族、ご友人でも使っていただけます。クリスマスや母の日のプレゼントなどにいかがでしょうか。

次回は、リムパーザがHBOCの方の手術後の治療時にも内服できるようになったお話です。