リムパーザについて④
今回は、リムパーザの臨床試験のOlympiAD試験についてお話します。
前回は、OlympiA試験でした。違いは、対象となった患者さんです。OlympiA試験では手術後のHBOC(遺伝性乳がん卵巣がん症候群)の患者さんであったのに対して、OlympiAD試験は、現在転移・再発のあるHBOCの患者さんになります。
OlympiaAD試験に参加された患者さんの条件にはさらに詳細な条件があって、乳がんの治療が始まってからアンスラサイクリン系抗がん剤とタキサン系抗がん剤がすでに投与されたことがある点です。これらの薬剤は乳がんの治療で最も効果が高いことが証明されているので、治療を開始した最初の段階で使用されることの多い薬剤です。OlympiAD試験ではこの2剤が手術前後に投与されていて乳がんが再発したか、もしくは再発が見つかってから両剤を投与したけれど効果がなくなってしまって、その次の治療法をどうしようかと考えたときに、リムパーザとその他の抗がん剤(ハラヴェン、ゼローダ、ナベルビンのいずれか)の効果に差があるのかどうかを検証しました。
302名の患者さんがこの試験に参加されて、205名の患者さんはリムパーザを、97名の患者さんがその他の3種類の抗がん剤のどれかを点滴もしくは内服されました。薬剤が効いている期間(無増悪生存期間 PFS)は、その他3種類の抗がん剤が4.2カ月であったのに対して、リムパーザは7.0カ月と約3か月長い効果が得られ、がんの進行を抑制できた確率(奏効率 RR)もその他の抗がん剤が28.8%であったのに対して、リムパーザは59.9%と、がんを維持あるいは縮小させる力はリムパーザの方が強かったのです。しかし、薬剤を使い始めてから亡くなるまでの期間(全生存期間 OS)はその他抗がん剤が17.1カ月、リムパーザが19.3カ月と約2カ月の差を認めたものの、統計学的に差が認められず、リムパーザがその他抗がん剤に完全に勝るという判定にはなりませんでした。
さらに詳細な解析をすると手術を受けてから再発された方で、手術前後にすでにアンスラサイクリン系抗がん剤とタキサン系抗がん剤が投与されていた患者さん(術後再発してからは抗がん剤を一度も受けずにリムパーザが内服できた患者さん)では、その他の抗がん剤を投与された方が14.7カ月、リムパーザを投与された方が22.6か月と亡くなるまでの期間に約8カ月の差がありました。
この条件に当てはまる患者さんには積極的にリムパーザをお勧めできると考えられます。この条件に当てはまらなくてもがんを維持もしくは縮小する確率(RR)は高く、がんの進行を抑える期間(PFS)は長いですから、あえてその他の抗がん剤を選択しなくてもよいかと思いますが、前回もお話ししました通り、リムパーザには特有の副作用があり、また薬価の高い薬ですので主治医の先生ともよくご相談なさって治療法を選んでください。
上に示しました薬剤が効いている期間(PFS)、亡くなるまでの期間(OS)はデータのうちの中央値を示しています。この期間より短い患者さんも長い患者さんもいらっしゃいますので、あくまで目安と考えてください。
今後のリムパーザですが、発売元のアストラゼネカ社のホームページを見ますと乳がんの患者さんを対象にした第3相試験は現在計画されていないようです。手術の結果、再発率が高そうなHBOCの患者さん(OlympiA試験)と、転移、再発したHBOCの患者さんで、アンスラサイクリン系とタキサン系の抗がん剤がすでに投与されている患者さん(OlympiAD試験)を対象にした現在の治療法がしばらく続くと思われます。
次回は、3月に適応拡大されたエンハーツのお話をしようと思っています。