エンハーツの適応拡大
桜が終わって過ごしやすくなってきたと思ったら、4月下旬からは急に寒くなりました。今年のゴールデンウィークは雨が多くなりそうです。
さて、この3月末にブログの第1回でご紹介したエンハーツが適応拡大されました。対象の患者さんは、内臓や骨などに転移があって、HER2低発現の方々です。さらに、転移が見つかってから最低1種類の抗がん剤投与が行われていることも条件です。
HER2とは細胞の表面にあるタンパクの一種で、乳がん細胞の表面にHER2が多いと細胞の分裂、増殖が活発になり、転移も起こしやすくなります。今までHER2は陽性(がん細胞表面に多い)か、陰性(少ない)かで治療方法が決定されていましたが、これまでの陰性が『低発現』と『全くない』にさらに分類されました。専門的に『低発現』はHER2 1+とHER2 2+でISH陰性、『全くない』はHER2 0になります。
このHER2低発現の方々を対象にした臨床試験「DESTINY-Breast04試験」ではエンハーツを投与された患者さん373人、エンハーツ以外の5種類の抗がん剤から主治医が選択した薬剤を投与された患者さん184人が解析されました。ホルモン受容体陽性の方でも陰性の方でも、投与から進行するまでの期間(PFS)も投与されてから亡くなるまでの期間(OS)も延長していることが確認されました。(PFS:ホルモン受容体陽性“Luminal type” エンハーツ群 10.1ヶ月 医師選択群 5.4ヶ月 ホルモン受容体陰性”TNBC” エンハーツ群 8.5ヶ月 医師選択群 2.9ヶ月 OS : Luminal type エンハーツ群 23.9ヶ月 医師選択群17.5ヶ月TNBC エンハーツ群 18.2ヶ月 医師選択群 8.3ヶ月)
副作用は悪心が76%の方に、嘔吐された方も40.4%ですので、吐き気の強い薬です。脱毛も39.6%ですので、投与された方全員ではないですが、ある程度は覚悟が必要です。あとは疲労が約半数の方に、好中球減少、貧血などが34.0%、38.5%ですが、これらはその他5種類の抗がん剤と大きく違いはありません。間質性肺疾患はエンハーツに多いことが知られていますが、こちらは12.1%、45人の方に確認されました。3人の方がこの間質性肺疾患で亡くなっていますので、要注意の副作用です。エンハーツ投与前には胸部CTの検査で肺に異常がないか、必ず確認する必要がありますし、今まで間質性肺疾患になったことがあるかどうか、既往も必ずチェックします。投与中は呼吸困難や空咳、発熱がないかどうか、ご自身でも確認してください。エンハーツは医療機関として間質性肺疾患に対応できるかどうかが大変重要ですので、大学病院などの総合病院、あるいは当院のようなクリニックでは呼吸器内科のバックアップが受けられる環境にないと投与ができません。当院は住友病院の呼吸器内科と提携していて、異常があればすぐに紹介受診していただけます。
エンハーツは今後も適応拡大されていく可能性があります。今年中には、「DESTINY-breast06試験」の結果が明らかになります。この試験はHER2低発現の方で、転移してから化学療法歴の全くない患者さんを対象にしています。他、HER2陽性の患者さんの術前化学療法や術前化学療法後、完全奏功が得られなかった患者さんを対象にした臨床試験も予定されているようです。
次回は、6月に更新予定です。